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絶望の裁判所

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今週、死刑囚の袴田さんが、再審決定により東京拘置所から釈放されたニュースが日本中に流れました。
一審で死刑判決を受けてから46年という、とてつもない年月がたってからの決定です。
拘置所から出てきた袴田さんは、元プロボクサーだった面影がまったく感じられないほど変わり果てていました。
布川事件の桜井さんと杉山さんは、釈放直後、マスコミのインタビューに答えることもできました。
しかし、袴田さんは認知症と拘禁症がひどく、入院が必要だということです。

一人の人間をこれほどの目に会わせる、日本の司法というものは、一体何なのでしょう。
誤審で無実の人間を死刑にしてしまったら、裁判所や裁判官は、殺人罪に相当する罪を背負うはずではないでしょうか?
日本の司法は、一人の無実の人間を死刑にしたとしても、その一生を台無しにしたとしても、何ら罰せられることはありません。
それはどうしてでしょうか? 一体どういう根拠に基づくのでしょうか?

多くの人は、社会正義を実現する裁判所たるもの、過ちを犯すはずはないと一応は思っています。
しかし、同時に、多くの人が、漠然とした、しかし同時に根源的な疑問を心の底で抱いているのも事実だと思います。
裁判所は本当に正しいのか? 本当に社会正義を実現しているのだろうか?
もし自分が、やってもいない犯罪の被疑者で逮捕されてしまったら、裁判所は自分を助けてくれるだろうか?
もし裁判所が正しくないとしたら、私たちはいったい何を信じればいいのだろうか?

袴田事件再審のニュースが流れる数日前に、書店で購入していたのが本書です。
筆者の瀬木比呂志さんは、裁判所の判事を33年間勤めあげ、いまは明治大学で教職の座におられます。
半分以上読んだころ、袴田さんのニュースを聞きました。

なぜ、再審決定までにこれだけの時間がかかったのか、本書を読むと、その理由がよくわかります。
本書では、判事として33年間、職務に打ち込んできた筆者が、裁判所ならびに判事の実態を「赤裸々に」描き出しています。読むほどに、まさに「絶望」という言葉が心に沁みこんできます。

裁判官の独立は、憲法にも保障されています。
しかし、実際には、裁判官の書く判決のほとんどは、「最高裁事務総局」の意向をうかがいながら、自らの保身を念頭に置いて書かれています。
もし最高裁事務総局の意向に反した判決文を書こうものなら、遠隔地を転々とする「懲罰人事」が待っています。後輩判事に後を越され、侮辱される屈辱に耐えられない判事は、やがて自ら退官していきます。
それだげではありません。退官後に弁護士に転身しても、提起した訴訟でことごとく敗訴を余儀なくされるという、かつての職場からの冷たい仕打ちが待っているのです。
そうやって、判事を締め付け、精神的な自由を束縛し、最高裁の意向に沿う判決を出させる。
それこそ「司法行政」というものの根幹なのですね。
そして、判事は、司法行政を構成する一部品である「司法官僚」に過ぎないということになります。

袴田事件でも、担当判事は、上司から「○○事件は、この方向で行け」と暗に命令されたのでしょう。
その命令に犬のように従う判事は、たとえ判事としての能力が十分でないとしても、上司の評価が上がり、出世街道を上がっていきます。
袴田事件の担当判事は、疑念を抱いていたものの、組織の圧力に屈し、有罪判決を出してしまいました。
彼は、認知症になった今も、当時のことを深く悔いているといいます。
しかし、このような「良心的な」判事はきわめて少数だと思うべきでしょうね。

自らが数十年前に出した有罪判決が覆ろうと、それで良心の呵責に耐えられないようでは、「司法官僚」たる判事は務まらないのですから。
それに、今までの再審裁判で、かつて有罪判決を出した判事のコメントを聞いたことなんて、一度もないでしょ。
無実の人一人の人生を台無しにし、斬首台の一歩手前まで追いやっていたのに、誰一人として責任を取りません。
逸失利益を国家賠償するだけです。それだって財源は国民の血税なわけで、当の判事は罰金ひとつありません。
誰も責任を取らないというのは、官僚制度の本質でもあるわけですね。


では、どうして、再審決定にこれだけの年月がかかるのかということです。
布川事件といい、免田事件といい、甲山事件といい、再審決定にはとてつもない時間がかかりますね。
なぜ、これだけ時間がかかるのか、誰しもが疑問に思っているはずです。
確定した判決を見直すのだから、それだけ時間がかかるのは当然なのだ、そうそう簡単に見直していては、判決の「重み」がなくなるではないか、と社会に対して暗に威嚇しているようにも思えます。

袴田事件のニュースでは、検察が隠していた新証拠が開示された、DNA鑑定の技術が進歩した、袴田被告が高齢化し人道的な措置が必要だった、などの理由があげられています。
でも、これらは表面的な理由にすぎません。

本書を読むと、その理由がよくわかります。
キーワードは「面子」と「人事」です。

判事にとって、自らが出した判決が覆されるというのは、キャリア上で決定的な汚点になります。
当然、その後の出世にも大きく響くことでしょう。
当該判事だけでなく、裁判所にとっても大きな汚点になります。
社会への説明責任を果たさなければならないし、誤審の責任を検察に押し付けるわけにもいきません。
何より「裁判所が過ちを犯すことはない」という社会の暗黙の信頼が足元から崩れることになります。
村木事件に見られるような、検察の汚職はまだいいとして、裁判所は「絶対」的な存在でなければなりません。

組織の意向に反して、裁判所の権威を貶めるような判決を出せば、その判事は左遷を逃れえないでしょう。
裁判所の世界では、組織の意向に反した行為をすれば、必ず陰湿な「報復」を受けます。
再審決定、あるいは無罪判決を出した判事は、以後、何らかの形で「報復」を受けることになるのは間違いありません。
たとえば、司法修習所で自分が教わった教官が出した有罪判決を、教え子である判事が覆す、なんてことが可能でしょうか。ありえないですよね。派閥と徒弟制度が跋扈する医者の世界を思い起こします。
察するに、判事というのは互いに傷をなめあう関係だということなのでしょう。

組織の意向とは、つきつめれば最高裁ですね。
裁判所の見立てが外れ、誤審だとわかっていても、裁判所は判事や検察官など関係者がリタイアするまで再審決定や無罪判決は出しません。
人事面の影響がなくなった時点で、最高裁が「そろそろ出してやるか」という意向を決め、下級審に向けて何らかの「信号」を出す。
下級審はそれを敏感に受け取り、「今度は再審決定/無罪判決で行けそうだ」という方針を決める。
袴田事件の再審は、そんな風にして進んだのではないでしょうか。


時をほぼ同じくして、袴田事件のニュースに隠れるように、別の事件の再審請求が棄却されました。
2000年に仙台の北陵クリニックで起きた「筋弛緩剤混入殺人事件」です。
もっとも、これはクリニックの経営者であった副院長による単なる医療過誤であり、「事件」ではないのですが、なぜか「殺人事件」に仕立て上げられました。当時、クリニックに勤務していた無実のM青年は無期懲役を宣告され、今も刑務所に収監され続けています。
数年前、テレビ朝日の「ザ・スクープ」で鳥越キャスターがレポートしていたのをご記憶の方も多いでしょう。
事件の詳細はこちらをご覧ください。
それにしても、よくもまあ、これだけの「事件」を構成できるものだと、その「創造力」には恐れ入ります。まるでシナリオライターみたいです。

本書を読むと、このM青年の前途が心配で仕方ありません。
誰が見ても無罪にしか思えない事案が、組織の意向で有罪にされていく。
自らの良心に反して(ていうか、もともと良心なるものを持っていない)、組織の意向に沿う判決を出すことをいとわない判事がいて、そういう判事が人事考課で高く評価されるとしたら、裁判の結果は火を見るより明らかですね。何だか恐ろしくなります。
これこそ「絶望の裁判所」そのものではないでしょうか。


ちなみに、本書では、「もし痴漢犯罪に巻き込まれたら、どうすればよいか」が紹介されています。
あなたがもし、満員電車で痴漢に間違えられ、女性から腕をつかまれて「この人、痴漢です」と叫ばれたとき、どう対応しますか? あまり考えたくないですけどね。

答えは、「相手の女性に名刺を渡し、ひとまずその場を立ち去る」です。
なぜかというと、「現行犯逮捕」されないためです。
その場を立ち去れば、少なくとも裁判所から逮捕状が出なければ、当局に逮捕されることはありません。
しかし、現行犯逮捕されれば、恐ろしい代用監獄が待っています。携帯電話や手帳を取り上げられ、連日連夜、厳しい取り調べを受け、職場や家族や地域の人たちの刺すような目線にさらされ続けなければなりません。証拠がないからと言っても、もし被害女性が法廷に出廷して涙を流して訴えれば、裁判官や裁判員の心証に大きな影響を及ぼすでしょう。そうなったら、あなたは無罪で出てくる自信がありますか?

いやはや、恐ろしい。
裁判所に過度の期待をするのはやめよう。
自らの身は自分で守るしかない、これに尽きるようです。


講談社現代新書
2014年2月20日発行
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テーマ : 最近読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

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古民家での晴耕雨読な暮らしに憧れる軟弱な熊谷都民。

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