スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

悲しきアンコールワット

mitome.jpg


 今の若い世代は、三留理男氏の名を知らない人も多いかもしれません。私が彼の名を知ったのは学生の頃で、集英社写真文庫「チュイ・ポン-助けて」を買ったのが最初でした。報道写真家としてインドシナやアフリカの危険地帯を駆けずり回り、数々のスクープ写真を配信した「猛者」です。当時、ベトナム戦争で殉職した沢田教一氏や、女流写真家の大石芳野氏の著作や写真集などをけっこう読みあさっていまして、ポル・ポト派による大量虐殺を取り上げた映画「キリング・フィールド」がリリースされたのは、それからじきのことでしたね。

 この映画も、政治的なスタンスはともかく、当時のカンボジアの現実をかなりリアルに再現していて衝撃的だったのですが、三留氏の「チュイ・ポン」は写真という静止画だけに、映画以上に衝撃を受けたものです。ベトナムとタイ(ならびにそのバックの大国)にはさまれ、正規軍とゲリラ軍の果てしない泥沼の内戦により、難民となった無数のインドシナ民衆の姿が、これでもかとばかりに出てきます。戦争は大量の難民を生む。ドンパチの戦場ではなく、戦争がもたらした難民の現実にシャッターを向けた三留氏の写真文庫は、今でも大切に持っています。

 かなり前置きが長くなりました。実は、これからが本題なのです(やれやれ)。
 終戦記念日の日、会社帰りにふらりと入った書店で、なつかしい名を目にしました。
「三留 理男」
  お。。。と思い、衝動買いしたのが本書。何年ぶりに目にした名だろう、と思ってプロフィールを見たら、1938年生まれとあります。もう70歳近いじゃないですか。なのにまだ現役だなんて。すごいの一言。

 内容は、彼が長らく報道写真の舞台として駆けずり回ってきたカンボジアの至宝、世界遺産にも登録されたアンコール・ワットの盗掘問題です。アンコールワットは、12世紀にジャヤバルマン二世により建立されたヒンドュー寺院で、壁という壁には美しいレリーフが埋め込まれています。
 今でこそ平和の国となったカンボジアで、多くの観光客で賑わっていますが、一方で「盗掘→密売」の被害にさらされ続けてきました。それでなくとも、ジャングルの中の苛酷な環境にあります。それがいまや「一大産業」になってしまった盗掘により、さらに荒廃が進んでいるのです。彼は、戦争が終わった後も、カンボジア行きをやめませんでした。そして、取材テーマを「遺跡の盗掘と密売」に変え、10年にわたり取材してきた成果をまとめたのが、本書というわけです。

 カンボジアのGDPは北朝鮮などと並んで世界最低水準です。そんな国のジャングルの中に、世界に誇る遺跡が鎮座しているときたら、それがターゲットにならないはずがないわけであって。今まで数百年の間、アンコール王朝が滅んだその日から、盗掘の被害に蝕まれ続けてきた悲しい歴史を、豊富な資料に基づいて具体的に書きつづっています。

 結局、つきつめれば、需要があるから供給があるという、単純なことなのかもしれないけど、それが「一大産業」にまで確立されるには、カンボジア社会の特異な側面が影響しているようです。長年のカンボジア取材で、政治・経済・文化に精通している三留氏だからこそ、遺跡の盗掘・密売の背景にある構造的な要因をリアルに浮き彫りにできたのではないでしょうか。
 たとえば、「遺跡ビジネス」はかのポル・ポト軍の重要な資金源になっていたという事実。ポル・ポト派は、元首相が死んだ後も、その残党は一部は正規軍の軍服に着替え、一部は完全武装のゲリラ兵として残存しており、タイ国境での密輸ビジネスを仕切っています。遺跡盗掘・密売ルートは、こうした事実と向き合わない限り、決して解明できるものではないし、解決など到底できるものではないことを教えてくれます。

 そのポル・ポト派はかつてジャングルの中のアンコールワットを前線基地とし、天使や天女の像を射撃訓練と称してぶち抜く一方、はぎ取った仏像を密輸して軍資金を得ていました。アフガンで潜伏中のタリバンも、かつてダイナマイトで有名な歴史遺産を破壊しました。砂漠とジャングル、赤色左翼とイスラム過激派という違いはありますが、各地をゲリラ的に転々とし、文化財を傷つけるなど、不思議なほど似ていますね。

 ユネスコはじめ各国の懸命の努力にもかかわらず、この100年のうちにアンコールワットは崩壊してしまうかもしれません。「遺跡を残す」とはどういうことなのか、根本的な(同時に永遠に解決不能な?)問題を投げかけているように感じました。


集英社新書
定価 700円+税

スポンサーサイト

テーマ : レトロを巡る旅
ジャンル : 旅行

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリー
プロフィール

fabio777

Author:fabio777
古民家での晴耕雨読な暮らしに憧れる軟弱な熊谷都民。

月別アーカイブ
ブログ検索
FC2カウンター
原発のない世の中へ!
【署名のお願い】自然エネルギー100%と原発の段階的廃止を実現するため「エネルギー基本計画」を変えよう!
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索
リンク
RSSフィード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。