
何を隠そうわたしは田口ランディさんのファンで、旅や山に出かける際には必ずといっていいほど携行しています。そう、山に行ったときテントの中でシュラーフにくるまって読むときとか、温泉につかった後ほってりした身体で読むときとか、ランディ・ワールドに浸かる絶好のシチュエーションですね。
好きな理由はいろいろあると思いますが、そのひとつが、ナチュラルな自然描写でしょうか。たとえば、この作品を読んでいると、話の舞台となっているインドネシアのバリ島の風景が、何だか目に見えるような感じがしてきます。頭の中に自然なイマジネーションを起こさせ、読者をいざなってくれるわけですね。
たとえば、こんな描写が出てきます。
日の出が間近らしい。空が充血している。
ものすごく空気が濃い。そういえば夜明け前の一瞬、植物は大量の酸素を空気中に吐き出すのだと聞いたことがある。
………………
しだいに空は狂おしいほどのバラ色に染まっていく。
朝が訪れるって、もしかしたら受胎なんだろうか。
光は闇を孕ませて、今日という日を生むのだろうか。
こういう描写は、森の夜明けの荘厳さを目の当たりにしたことのある方なら、自然な感覚としてフィットするのではないでしょうか。
わたしは北アルプスの蝶が岳という山にここ数年は毎年登っていますが、この山は向かいの穂高から槍が岳までを一望に出来る展望台としても人気があります。そして、この蝶が岳で迎える夜明けの神々しいことと言ったら。。。とても言葉には出来ないですね。あえて言葉にしようと思えば、こういう表現がとてもぴったりです。
ランディさんには、自分が感じたことを素直に自分の言葉に変換できる不思議な能力があるのかも。いろいろな言葉を羅列した過剰な描写はなく、飾りっ気ないのだけれど、短い簡潔な表現で、強いイメージを植えつけられてしまうような気がします。

さて、本作品は、ピアニストの女友達ミツコの足跡を追って、インドネシアのバリ島で過ごした女性の夢心地のような7日間を描いたもの。ストーリーはともかく、バリ島の濃密な自然とそこに暮らす人々の姿が丹念に描かれていて、頭の中でいろいろなイメージが湧き上がってきます。
バリでの森林浴は、さぞかし濃密なものでしょう。
いつか行きたいものです。
2002年 筑摩書房発刊