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トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか

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2009年7月13日から17日までの予定で組まれた、アミューズトラベル社主催のツアー登山で、真夏だというのに8人もの方が低体温症でなくなられた、衝撃の事件から1年。いまだに多くの「?」に包まれているこの事故(事故というより、事件といったほうがいいかも)、科学の視点も踏まえて客観的に分析した、待望の書が出版されました。

低体温症と疲労凍死の区別がつくか、と聞かれて、明確な違いを説明できる人は、医者を除いていないに違いありません。いや、医者だってきちんと説明できないかもしれない。一般登山者向けに、低体温症とはどういう症状をいうのか、何が原因でどのようにして発症するのか、応急措置の方法や治療法はあるのか、といった疑問に答えてくれます。山に行く人間は誰もが一読しておくべき本じゃないのかな、と強く思いました。

山岳遭難ライターの第一人者である羽根田治さんが、第一章で遭難の全貌を詳細なヒアリングから再現し、最後の第六章でツアー登山の問題点と今後のあり方についてまとめています。第二章では、ツアーに参加して命からがら生還し、1年の沈黙を経て重い口を開いたガイドの生々しい証言をインタビュー形式でまとめています。
ここだけ読めば、このツアーの生々しい実態を知ることができます。

第三章は気象遭難、第四章は低体温症、第五章は運動生理学の話。ちょっと固めのタイトルですが、わかりやすく書かれていて、データにしても自分の山行に当てはめて実感できるように書かれているので、ちゃんと読めば、とても参考になるのは間違いありません。

いろいろ書いてしまうとネタバレになるのですが、第一印象は、低体温症って思っていた以上に恐ろしいんだな、そして、人間ていとも簡単に死んでしまうんだな、ということでした。重ね着をする、衣服を濡らさない、行動食を摂取する、風雨の強い場所に長時間立ち止まらない、そして何より、悪天候下では行動を慎むこと。。。考えてみれば、いずれも基本中の基本なのですが、「諸般の事情」により、これらの基本が守られないと、悪条件が重なって低体温症になってしまう。トムラウシのような環境で、ひとたび低体温症になってしまったら最後、自分で自分を救う方法はないといっていいみたいです。意識が朦朧としてきて、足がふらついて転ぶようになり、ろれつが回らなくなり、どうでもいいや、と感じ始めたら、もう立派な低体温症。元気な人に支えられて暖かいテントや避難小屋にでも入らない限り、あとは死ぬしかありません。
なんだか睡眠薬自殺みたいだ、と思いました。

事故当日の気象は台風とほとんど同じ、そして、北海道の2000m級は北アルプスの3000m級と同じ。真夏とはいえ、台風の中、北アルプスの3000mの稜線を歩いたとしたら。。。
今回の事故は、それくらいの「無茶」を強行した結果なわけです。

本書を買うときは、このツアーの実態を知りたいという気持ちが強かったのですが、低体温症の怖さのほうがずっと印象に残りました。

ツアーの実態については、新聞や雑誌で書かれていた内容の延長線上で、バラバラだった生存者の証言をつなぎ合わせ、不運にも亡くなられた参加者がまだ生きていた時の様子を再現し、時系列で整理されています。そして、三人のガイドのうち、添乗員でもあった西原ガイド(日本山岳会公認ツアー)は低体温症で亡くなり、一番若い山崎ガイド(自称ポーター)はハイマツの上で意識を失っていたところを翌日に発見され、今回のインタビューで口を開くことになりました。もう一人のカギを握る人物、瀬戸ガイドは本書のインタビューには応じていません。

旅行会社の法的義務については詳しく知らないのですが、今回のツアーで真っ先に法的責任を追及されるのは、当然のことながら、主催者であるアミューズトラベルだとばかり思っていました。しかし、警察が立件を進めているのはガイドだそうです。西原ガイドは死亡し、山崎ガイドはあくまでサブガイドで参加したわけなので、瀬戸ガイドが立件されることになるのでしょうか。彼がインタビューに応じなかったのは、もしかすると、そういう事情があるのかもしれません。しかし、ガイドだけが立件されるというのが本当だとしたら、ちょっと腑に落ちない部分もありますね。

今回の事故の後、アミューズトラベルは、入院中の山崎ガイドを訪ね、「無謀なことはしないでください」というようなことを言ったのだとか。なんだかまるで他人事みたいな口ぶりで、ちょっと唖然としました。
本当だとしたら、おいおい、という感じですね。
責任をすべてガイドにかぶせる気か、と思いました。

ちょっとの悪天候でいちいち停滞にしていたら、飛行機やホテルのキャンセル・再予約などに追われ、旅行会社の利益はそがれてしまうから、旅行会社としては、できるだけ予定通り進めてほしいと思っているし、ガイドにも常々そういうようなことを暗に「におわせて」いるはずです。
普通のパーティなら、リーダーの判断がすべて。でも、ツアー登山におけるガイドは、会社の命令で、クライアントである登山者の命を預かり、山に登らせ、無事に下ろすまでの全責任を負う。普通のパーティのリーダーとは性格がまるで違います。しかも、驚くほどの低賃金。会社に足元を見られてるわけです。こんな低賃金でここまで責任を負わされちゃ、やってられねーよ、というのが本音でしょう。

ガイドの頭には、もし停滞と判断し、天気が劇的に回復した場合、「十分行けたにもかかわらず判断を誤り、会社の利益を損ねた、役に立たねえガイド」みたいなレッテルをはられてしまい、仕事を回してもらいにくくなるのではないか。。。担当者の顔が頭に浮かんだに違いないと思うのです。

今回、新千歳空港で参加者が集合した時のこと。山崎ガイドはこんな証言をしています。亡くなった西原ガイドは「いやなもの引き受けちまったな。受けるんじゃなかったな」とつぶやいていたそうです。それから、ヒサゴ沼避難小屋に泊まったときにも、「こんな山には二度と来たくない」とつぶやいていたそうです。

これは何を意味するのでしょうか。

海外も含め、今まで多くの山岳ツアーでガイドをしてきた西原氏の言葉です。おそらく、主催する旅行会社の姿勢、コースの全容、参加者の経験度や技術レベル、天候、その他いろいろな要因が積み重なった結果、今回のような事態が起きる可能性を予見し、「行きたくない」という感情を最初から持っていたわけです。
なぜ、彼は行きたくないと思ったのか。そこに、今回の事故を解明するカギが隠されているように思います。

裁判でガイドの刑事責任を立証したところで、問題の解決にはつながらないと思います。
いろいろ感じるところはありますが、もうこのへんにしておきましょう。

改めて犠牲者のご冥福をお祈りします。

合掌
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古民家での晴耕雨読な暮らしに憧れる軟弱な熊谷都民。

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