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線路工手の唄が聞えた

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今からもう20年も前、学生の頃に神保町の古本屋で買い求めたものです。以後、何度となく引越しをしたが、その都度、捨てずに大切にしてきました。数年ぶりに読み返してみると、やはり素晴らしいです。今、こういう本は本当に少なくなってしまったから。

私が物心ついた頃、すでに線路工手の唄は過去の遺産となっていました。列車が走るたびに少しずつひずんでいく線路を保守する線路工手の仕事は、それはそれは並みの労働ではなかったと思います。著者がインタビューしている人たちは、淡々とした口調で(現実に聞いたわけではないが)、何でもないことのように語っていたようですが。

鉄の巨体が走れば、レールは砂利の中に少しずつ沈んでいきます。彼らは、ビーターというツルハシのような道具一本で、バラストと呼ばれる砂利を掘り起こし、線路のひずみを少しずつ修正していきます。すべて目分量と手作業の世界です。工具といえば、水準器くらいで、あっちを直せばこっちがずれる。熟練した技能を持つ工手がチームを組み、独特のリズムで調子を整えながら共同作業をしていくのです。寒冷地では地盤に含まれる水分が凍結し、凍上といって数センチも線路が浮き上がってしまいます。きついカーブでは列車の車輪がレールのフランジを削り取っていきます。

自動車や航空機と違い、鉄道は、列車と線路のバランスですべてが決まります。道路も自動車にとって重要だが、その整備の要求精度は鉄道における線路の比ではありません。道路は多少の凹凸があっても走れますが、列車の場合、レールが少しでも盛り上がれば、架線の切断という大事故につながりかねないわけであって。

線路工手は、数ミリというレールのずれを目視でピタリと言い当てることが出来ました。戦前の昭和初期、すでに日本の線路は、今の新幹線と同レベルの水準を誇っていて、それは同時に、世界最高水準の線路を意味するものでもありました。それらはすべて、来る日も来る日もビーターを振り下ろす線路工手の腕一本にかかっていたのです。すごいことです。

本書は、彼らが作業中に歌っていた唄「道床敷き固め音頭」を手がかりに、彼らの世界に入っていきます。彼らの歌の取材を通して、それが単に重労働のための気晴らしではなく、もっと深い根源的な意味があることをじっくりと解き明かしていきます。読みながら、江差追分などの民謡と似たところがあるように感じました。民謡の起源は、人々の仕事と暮らしの中にあったに違いありません。そして、社会が変われば、急速な速さで消えていってしまいます。

本書を読んだら、線路にツバを吐いたりタバコの吸殻を捨てることなどできなくなるでしょう。たとえ線路保守の業務が全自動化されたとしても、その神聖さは決して変わることはないのですから。

象徴的だったのは、かつての旧北陸本線の筒石地区の線路保守をしていた人のインタビューです。明治時代に開通した単線仕様の旧北陸本線は、今と比べてトンネルが非常に小さかった。暗いトンネル内で作業中、列車が近づいてきます。少しでも気づくのが遅れれば、待避所に逃げ込む時間はなくなってしまいます。列車と壁の間はギリギリで、やむなく、線路の脇に突っ伏して列車が通過するのをやり過ごします。ところが、当時の列車のトイレは今と違って、垂れ流し。トンネル内の線路の脇に伏せている彼らに、容赦なく糞尿が浴びせかけられる。。。こんなひどい話があるでしょうか。著者の橋本氏は、彼らに糞尿を浴びせかけた者は、直接的には乗客に違いないが、もっと広い意味で、ぼんやりした影、正体不明の社会をあげるしかないと書いていますが、わたしも激しく同感です。

日本の近代化、高度成長、そして迎えた21世紀のひずみは、今まで日本人が大切に育んできた目に見えない何かを軽視し、数値だけで社会の進歩を測る風潮が生み出したといえないでしょうか。事実、技術革新の名の下に、優れた技能を持つ職人の多くが社会から抹殺されていったのは紛れもない事実なのですから。

鉄道が交通の主役を自動車や飛行機に譲り、蒸気機関車やブルトレなどさまざまな列車の雄姿が日本の風景の核として愛されていた時代は過去のものになりました。瞬時にして走り去ってしまう新幹線は、風景の中には残らないのです。高速鉄道は、風景の構成要素ではなくなってしまいました。そうして線路工手たちも、歴史の彼方に葬り去られようとしています。そんなとき、この本は、かつての日本を支えていた大切な何かを思い起こさせてくれるんですね。

たぶん死ぬまで捨てることはないでしょう。
そして、小泉純一郎センセイや竹中平蔵センセイにぜひご一読を願いたい(笑)。

橋本克彦 著
1983年大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品
JICC出版局(絶版)
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テーマ : レトロを巡る旅
ジャンル : 旅行

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古民家での晴耕雨読な暮らしに憧れる軟弱な熊谷都民。

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