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廃墟の美学

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 しばらく前、「廃墟」がブームになったことがありますね。確か、20世紀が終焉を迎える頃、だったのではないでしょうか。長崎の「軍艦島」を舞台としたドラマが放映されたり、書店で廃墟関係の写真集がよく売れたり。そして、その「廃墟熱」は今も、静かに続いていると思います。

 廃墟はなぜ、人々の心の琴線に訴えてくるのでしょうか。

 卑近な例で申し訳ありませんが、かつて私が中高生の時代を過ごした家を、数十年ぶりに見たことがあります。買い手がつかないのか、数年は放置されていました。家族やイヌと過ごし、友達と遊んだ想い出の詰まった大切な家。それが今、外壁にはツタがからまり、フェンスは錆びてボロボロ、まさにプチ廃墟でした! このショックは言葉ではなかなか言い表せるものではありません。主たちの生活がなくなった瞬間から、建物は廃墟への道を、まさに坂道を転がり落ちるように猛烈なスピードで進み始めます。見放された空間の「死」ですね。

 本書は「廃墟の美学」であり、形而上学的な「美学」の世界から廃墟にアプローチしたもので、きわめて物質的な廃墟観を前提にすると面食らうことになります。でも、私自身、こういう論考がどこかにないのかな、ということは漠然と考えていました。ネット上には、いわゆる廃墟サイトがたくさんあるけれど、ほとんどは興味本位の探検趣味で、高齢化が進み経済活動が停滞すれば、彼らを喜ばせるようなこの種の廃墟は増加の一途を辿るに違いありません。アメリカあたりに行けば、産業遺産と呼べるような工場廃墟はあちこちに放置されています。
 廃墟にどう向き合うべきか、いずれ都市政策上の重要課題になりかねないところまで来ているのではないでしょうか。

 いつものように、前提が長くなりすぎました。

 私としては、本書で2つのショックを受けました。
 第一に、本書を開いて早々に出てくるのは、詩人であり建築家であった立原道造です。彼は東京大学建築学科の卒業論文で、廃墟を取り上げていました。「私は『死』あるいは『壊れやすさ』に結び付けられた場所において『建築』なるものを見ようとする」と書き、西洋哲学を引き合いにして「うつろい」「滅び」の感性を論理化しようとしていた、とか。24歳にして夭逝した自らの運命を象徴していたのでしょうか。本書では単なるイントロでしかありませんが、私は立原道造の卒業論文を無性に読んでみたくなってしまいました。

 そして第二が、モンス・デジデリオです。1966年に澁澤龍彦氏により紹介されるまで謎に包まれた16~17世紀の幻想画家で、漫画家の藤子不二雄のように2人の画家の合作だったらしいことはわかっていますが、多くの作品が所在不明で、日本には一枚も残されていません。

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 「聖堂を破壊するユダ王国のアーサー王<聖堂の倒壊>」と題されたこの絵は、デジデリオの特徴がよく現れた作品として、本書でも引用されています。多くの風景画では、建築は単なる背景であり、それ自体が主体になることは少ないですが、デジデリオの絵では、空間としての「死」を迎えつつある建築それ自体が主体であり、人間はディテールの一部として描かれているにすぎません。難しい美術評論的なことはわかりませんが、ダリやデルヴォーなどの近代のシュルレアリストと比べて技巧的でない分だけ、建築の廃墟性がダイレクトに伝わってくるように思えます。

 風景と廃墟。廃墟の風景。。。謎に満ちた、シュールで、魅惑的な、でもちょっと怪しくて危なくて、とても深い世界だなーという気がします。

 結局、立原道造とデジデリオの衝撃が大きすぎて、残りはあまり頭に入りませんでした(著者には申し訳ないけど)。デジデリオの作品集の復刻版も検討されているようなので、これには大いに期待したいですね。
 欲を言えば、写真をもう少し大きくレイアウトしてほしかったなー(4Cカラーとは言わないまでも)。

谷川渥著
集英社新書 660円
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テーマ : レトロを巡る旅
ジャンル : 旅行

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古民家での晴耕雨読な暮らしに憧れる軟弱な熊谷都民。

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