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ガウディの伝言

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 京都の美大を卒業し、アルバイトで美術講師をしながら彫刻家への道を漠然と探っていた著者は、20代のある日、ヨーロッパへ向かうことを思い立ちます。最初にフランスを訪れた彼の足は、次に向かうはずだったドイツでなく、スペインに向かいました。マドリッドではなく、バルセロナに向かったのも、半分は成り行きだったらしく。。。
 しかし、なかば何者かに導かれるようにして引き付けられたバルセロナには、ピカソやダリとならび賞されるカタルーニャの生んだ天才、ガウディの遺した建築物が光を放っていました。その光の虜になった著者は、いまだ建設中の「サグラダ・ファミリア」の現場に自然と出入りするようになり、いつしか専属彫刻家として、その修復に携わるようになっていきます。それはまさに運命的な出会いだったに違いありません(偶然の出会いというより、何かを探し求めていた若者を美の神様がバルセロナに呼び寄せた、のかもしれませんね)。

 本書は、天才ガウディの「伝言」を読み解きながら、志なかばにして世を去ったガウディが後進に託した「サグラダ・ファミリア」の完成に向けて、来る日も来る日も石を彫り続けてきた濃密な28年間に見たこと考えたことを、やわらかいタッチでつづったもの。

 ガウディの建築は、そのあまりの奇抜な構造と過剰な装飾とで、見る者を圧倒し、冷静な思考を奪い取ってしまうように感じます。特に建築のデザイナーであれば、なおさらです。でも、著者によると、ガウディの建築は、たとえば、
○空間を立体的に考えるには二次元の図面は邪魔になる
○すべての部材は機能と象徴とを兼ね備えている
○三次元の曲面は一本の直線の集積に過ぎない(双曲線)
といった原理原則に基づいた、きわめて合理的で幾何学的なもの。石という自由の効かない材料だけで高層建築を作り出すために、鎖を逆さ吊りにしてカメラで撮影し、それを上下反転させ、重力と調和する理想的な構造を生み出すに至ったという話は、驚きを超えて感動的ですらあります。過剰とも思える彫刻も、すべてキリスト教への深い理解からごく自然に生み出されたそうです。

 一見複雑でも、思考の拠り所となる規準さえ知ってしまえば、あとはそこからの類推でものが出来上がっていく仕掛け。没して以後も、天の上から地上の人間たちを導いているかのよう。著者は、まさに天国のガウディとの対話を通して、彼の分身となって、生前に果たしえなかった夢の実現に向けて精魂込めて石を彫り続けて来たのです。

 読み終わった後、深い満足感に包まれました。何ともいえない感動。心地よい余韻。きっと、ガウディの建築って、訪れる者、その空間に身を置く者をこういうすがすがしい気持ちにさせるに違いありません。いい空間は人の意識を浄化させる。きっと、ガウディはそんな考えを持っていたのではないでしょうか。

 著者は彫刻家であり、職人です。職人は一般に寡黙で多くを語りません(最近はテレビに出たりプレゼンまで行う職人もいるけれど)。彼らにとっては目の前に作り出される「かたち」がすべての価値であって、その点で言葉は何の意味もないから、なのでしょうか。すべての思いやメッセージを作品に込めれば、それが彼の手を離れてどこに、誰の元に流れ着こうと、彼の作品を手にした者にメッセージは伝わるはずです。逆に、作品が不完全であれば、半端な言葉で補わざるをえなくなります。作品にすべてが込められる、それが職人の世界なのだろうと思います。素敵ですね。

 ガウディは職人の家庭に生まれ、職人たちの仕事を見ながら育ちました。一見「職人泣かせ」に見える奇抜なデザインも、実は職人の作業性を最大限に考慮したデザインなのだそうです。それも、実際に石を彫るという作業を続けてきたからこそ、気がついたことですね。

 日本は世界に誇るものづくりの技能を持っています。日本の精緻な伝統美術工芸は多くの西洋人の目を釘付けにしました。ガウディに負けないだけのものを持っているわけです。でも、日本という国は、あまりに経済発展を急いだせいで、職人という国の誇る宝をあまりにも粗末にしてきたのではないでしょうか。何百年にわたる伝統の蓄積に支えられた職人の技能をコンピュータに代行させるというのは、自殺行為ではないでしょうか。それが生産性の向上というなら、この国は一体どこに向かおうとしているのでしょうか。ドッグイヤーなどという言葉を考え出したのは誰なのでしょうか。いまだに建築中で完成のメドもたたない「サグラダ・ファミリア」と、あまりに対照的ではないでしょうか。

 バルセロナで彼が石を彫っているところを見てみたいと思います。少し離れたところから、覗くようにして。きっと、いい目をしているに違いありません。


外尾悦郎 著
光文社新書
950円


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テーマ : レトロを巡る旅
ジャンル : 旅行

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古民家での晴耕雨読な暮らしに憧れる軟弱な熊谷都民。

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